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2010年3月 9日 (火)

チリ大地震による遠地津波で浮き彫りになった課題

結論から言えば、東京マラソンは開催しても良かったのだ。

石原慎太郎東京都知事は、東京マラソン終了後、記者団のぶら下がり取材に、こう答えた。

「地震がいつ起こるかわからないのに、中止にするバカはいないでしょ。くだらん質問をするな!」

怒るようなことか。どうして、こんな、くだらない受け答えになってしまうのか。

そもそも、地震と津波では、同じカテゴリに入っても、別の現象だ。地震はいつ来るか分からないが、今回の津波は、遠地津波なので予想ができる。津波の予想によっては「中止するバカ」がいても、全然おかしくない。

それでも、東京都がマラソンを決行したのは、「地震がいつ起こるか分からない」からではないのだ。

中央防災会議の首都直下地震対策専門調査会は、2004年11月17日に報告書をまとめている。

「東京湾内で最高の津波の高さとなるのは、東京湾内に設定した直下の地震で、その場合でも最大の高さは50cm未満である。」

2月28日、津波警報の「予想される津波の高さ」は、東京湾内湾で1メートル。もっとも、この1メートルというのは、「東京」ではなく、「東京湾内湾」なので、木更津とか千葉、横浜も入る。

歴史的に、東京が津波の大きな被害を受けたという記録はない。

関東大震災のときにも、東京は火の海になったが、津波の被害は受けていない。当時は、相模湾での津波が大きく、オイラが住んでいる鎌倉でも、たくさんの人が亡くなっている。

では、2月28日、実際に東京を襲った津波は、何センチだったのか。

東京晴海では、15時23分に第1波が襲い、高さは20センチ。最大は17時23分に最大波が襲い、高さは30センチだった。

東京マラソンのゴール地点である江東区有明は、護岸が海抜よりも6〜8メートルくらいあり、今回の津波が護岸を越えることはない。

客観的に見ても、マラソンを中止するほどの津波ではないのだ。

東京は、過去に洪水や高潮の経験があるので、防波堤や水門が整備されている。なので、相当高い津波が来なければ、街が水浸しになることはないのだ。

問題は、30センチという最大波をどう評価するのか。

仕事柄、専門家にお聞きする機会があった。

ひざの高さを越える津波を受けて、立っていられる人はいない、ということだ。大人なら50センチ弱だろうか。子どもはもっと低くなる。

東京の港湾をいきなり越えてくることはないが、浜辺など、波打ち際は、50センチの津波でも軽く持って行かれる。川沿いも要注意。最近は親水護岸とかいって、隅田川沿いでも川面に近い場所で散策できるところがある。

津波が川をさかのぼるのは、ご存知の通り。

東京マラソンをやっているからといって、川沿いを散歩するなんて問題外だ。

ところで、オイラが住んでいる鎌倉は、どうだったか。

鎌倉市は津波ハザードマップがあって、浸水予想がある。

過去の津波災害の経験も記されていて、分かりやすい。2月28日は、市内の2つの小学校が自主避難場所として開放されたが、避難勧告や避難指示は出ていない。

問題は、対岸の江の島(藤沢市)だ。

オイラは、朝から江の島の高台にあるサムエル・コッキング苑に向かった。こちらは、広域避難場所に指定されていて、当日はお昼から展望灯台を除き、無料開放された。

外は雨が降っていたし、寒かったので、お金を払って、展望灯台にのぼり、津波を待ちかまえていたのだが、まあ、来るは、来るは、観光客。特に、お昼過ぎから晴れてきたもんだから、江の島を渡る橋をとことこと観光客が歩いてくる。

津波の到達予想時刻は午後2時。さすがにその時刻が迫ると、消防の方が前後に付き添って、橋を渡っていた。そこまでして、観光に来る状況ではないのだが。

江の島展望灯台にも、消防の方が待機していて、海岸線を監視していた。

午前中は、乗るべき波を間違えたサーファーがたくさんいたので、上から監視して排除していたのだ。

午後になると、東海道線、江ノ電、小田急江ノ島線が運転を見合わせ。江ノ島発着のバスも、お昼頃から夕方まで運転を中止した。江ノ島の飲食店や土産店のうち、海辺に近いところは店じまいした。

第1波の到達予想時刻である午後2時を過ぎても、特に潮位の変化は見られなかった。

午後3時になると、沖合に避難していた漁船が、続々と片瀬漁港と腰越漁港に帰ってきた。

この頃になると、江ノ島で海の様子を見ていた観光客がそわそわし始めた。みんな、電車が止まっているから、帰るに帰れない。でも、いつまでも江ノ島にいるわけにもいかない。

夕方が迫るにつれて、次々と観光客が、今度は橋を逆に駅に向かって渡り始めた。

警報発令中なんやけど?

そのたび、つきあわされる消防も、つくづく大変である。

遠地津波は、振幅が長く、終息まで時間がかかる。

今回、津波警報の発令から解除まで、丸半日かかっている。朝から晩まで警報がかかったままなのだ。注意報の解除は、翌朝になってしまった。

現実に目の前の海に変化が何もないのに、半日ずっと避難し続けるのは、正直、厳しい。

遠地津波の場合、長時間、津波が押し寄せることは、理屈としては分かる。

実際、三浦市油壺では、第1波が14時26分に20センチを記録。最大波は21時7分に40センチを記録している。

津波は、第1波より、第2波、3波のほうが高くなることがある、というセオリーそのままの記録が、あちこちの観測地点で出ている。

漁船は、第1波の確認だけで戻ってきてしまったし、観光客は夕方、橋をすたすた渡って、安心して帰っていった。しかし、津波は実際には、夕方以降に最大波が押し寄せていたのだ。

たまたま、今回は想定された高さよりも低い津波だった。

だが、想定通りの波だったら、どうだっただろうか。

相模湾の想定は、2メートルだった。

日本近海で起きる津波なら、考えている暇もなく、沿岸を津波が襲う。場合によっては、警報より早く、津波が到達するかもしれない。だが、遠地津波は、遠くから何時間もかけて、日本に到達する。チリなら、丸一日かける。

話を少し整理しよう。

第一に、2メートルだろうが、30センチだろうが、危ないものは危ないのが津波だ。

第二に、遠地津波の場合、第1波から終息まで長時間かかってしまう。

第一点目から話すと、現在の「30センチ」とか「1メートル」という表現が、受け止める側の誤解を与えやすいってことだ。普通の波が50センチ来ても、流される人はあまりいない。でも、津波が50センチ来れば、軽く流される。

津波と、普通の波とでは、破壊力が段違いなのだ。

第二点目については、「津波警報」「大津波警報」という状態だけを、延々と12時間続けたら、消耗戦になってしまうってことだ。危ないのは分かっていても、精神的に持たない。地震は、先にやってきて、被害があって避難する。だから、避難しても、精神戦にはならない。だが、津波は、いつやってくるのか分からない上に、やってこないかもしれない。

2つをまとめると、要は、伝え方に課題があるのだ。

例えば、テレビは延々と、通常の放送画面に重ねて、日本地図を映し続けている。あとは、「海には近づくな」「高台に避難しろ」の繰り返ししかない。

情報が画一的で、ステレオタイプだ。

今回、避難しなかった人が多かったことがクローズアップされている。でも、テレビは本当に、リアルな情報発信ができていたのだろうか。被害を受ける可能性のある人の立場に立った情報発信ができていたのだろうか。

翌3月1日に、気象庁が謝罪していた。

これも、おかしい。

津波の想定に誤差が出るのは、当たり前だ。想定より大きな津波が来たんなら分かるが、今回、想定を上回った箇所はない。しかも、気象庁が発表している津波の高さは、検潮所の数値であって、それ以外の場所ではもっと大きな津波があったのかもしれない。

誤差を埋めるために、観測態勢を強化するというなら分かるが、あやまることなのか。

伝え方を変えるべき、というなら、気象庁だけの問題ではない。リアルタイムで速報を流すテレビやラジオ、インターネットにも責任がある。民間の気象予報会社だって、役割を担えるはずだ。

ウェザーニュースのsolive24がリアルタイムに情報を流していたが、これも法律の壁があって、情報が画一的にならざるを得なかった。でも、津波で浸水した下田からの電話リポートや、ライブカメラの映像など、それなりに限界に挑戦していた。

さて、冒頭の都知事の発言に戻ろう。

石原知事は、淡々と、東京は安全だから、マラソンをやっても大丈夫、でも、都民の方は海岸や川沿いには近づかないでほしいと、伝えれば良かったのだ。

記者を恫喝する必要など、どこにもなかった。

警報を発令しているのに、のんきにマラソンやってていいのか、ってのは、誰でも感じる疑問だ。

でも、考えてみれば、東京でなくても、みんなのんきに、津波なんて大したことないんでしょって感じで、平和に過ごしていたはずだ。

こんな伝え方では、ダメなのだ。

いつか、本当に人が犠牲になる日が来る。

何が足りなかったのか、これをきっかけに考えるべきだ。

もちろん、石原知事の発言は、「伝え方」としては問題外だ。

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コメント

日本全国ご無事でなによりでしたね。
津波報道については、秋庭さんと双璧くらいに困った方がいらして、
彼が私怨から、これまたお手軽な国会議員にメールで、「日本テレビは、東京マラソン中継を津波報道より優先した、けしからん」と放送法6条2項を盾に讒言したら。
お手軽な代議士はパックリその餌に喰い着いて、総務省の役人呼びつけて、日テレ何とかしろと恫喝。
役人が「編集権とかあって無理言えません」と楯突くと、代議士自分のブログでその役人の姿勢を「法匪」と罵ると言うお粗末。
都知事と言い、このお手軽代議士と言い、本質の外しっぷりが半端じゃない昨今の政治屋さん、彼等こそ何とかならんのかしらと、選挙区外の住民として思う次第。

投稿: 陸壱玖 | 2010年3月10日 (水) 10時44分

おはようございます。

んなアホな代議士、いたのですか。テレビの通常放送に、地図を重ねて、点滅させる、あの津波情報の出し方は、確かにウザかったんですが、総務省が介入するようなことじゃない。しかもblogに書いちゃうところが、いまどきの恥ずかしい代議士センセーですなぁ(^-^;

投稿: mori-chi | 2010年3月11日 (木) 07時52分

mori-chiさんを巻き込むつもりもないので、誰とは言いませんが…(笑
衆議院災害対策特別委員会委員長閣下です。
この方の公式ブログ平成22年3月2日、3日で御行状についてご自身で書き込まれておられます。
3月2日記事には当初讒言を為した人物名(情報提供者名)が入っていたのですが、いつの間にか御消しになられました(笑
こんなんばっかりなんですかね、代議士って。

投稿: 陸壱玖 | 2010年3月12日 (金) 10時21分

情報提供ありがとうございますm(_ _)m

なるほど、放送法も津波災害も無理解な災害対策特別委員長ですね(笑)今回感じたのは、中井防災担当大臣といい、このがらがら委員長といい、パワハラ都知事といい、ペコペコ謝った気象庁の課長といい、津波大国日本の未熟さですね。

また機会があれば、書こうと思います。

投稿: mori-chi | 2010年3月15日 (月) 07時46分

あれ?twitterはじめたんですか?
釣られてユーザー登録したりしてw
滞っていたwiki、一寸更新してみました。
http://www3.atwiki.jp/619metro/pages/146.html
法政大学地下7階ネタの解析入りです。
気力のある時によろしければご一読を。
押し売りでゴメンなさい。
                 陸壱玖 拝

投稿: 陸壱玖 | 2010年3月17日 (水) 01時20分

力作お疲れ様ですm(_ _)m

秋庭しぇんしぇ、なかなか現れませんね。年末年始は、公設派遣村に並んでるんじゃないかと案じておりました。

森鴎外研究に勤しんでらっしゃるのなら良いですが、息子さん、食わせるの大変でしょうに。

投稿: mori-chi | 2010年3月18日 (木) 18時41分

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