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2008年7月25日 (金)

猪瀬直樹『日本の信義 知の巨星十人と語る』(小学館)を読んだ。

昭和天皇の死は、1989年1月、オイラが大学生のときだった。

天皇と死は、昭和に生まれ、昭和に育ったオイラには、結びつけるのが難しかった。人はいつかは死ぬと分かっていても、昭和天皇の存在は、テレビのブラウン管から毎朝同じキャスターがニュースを読んでいるのと同じ心境で受け止めていた。

昭和天皇の死とバブル経済の崩壊

のんびり屋で政治や国際情勢に関心がないオイラすら、いやでも激動の波に放り出された時代だった。

『日本の信義』

あの瞬間から日本人は、日本人らしさを喪失し、広い地球を放浪する「島」でしかなくなってしまったのではないか。

東京を威厳ある首都として守ってきたのは、皇居というブラックホールがあるからだ。あの真ん中に緑が生い茂る空間で、「天皇」という象徴が君臨している限り、地下鉄は皇居を避けて走り、高層ビルは皇居を覗き見するほど高くはならない。

環状道路は皇居を中心に回り、放射道路は皇居を中心に放射する。

オイラは、その日、東京に住んでいる友達からの電話で目を覚ました。

「今すぐテレビを見て!」

眠い目をこすりながらテレビのリモコンのスイッチを入れると、いつもは笑顔でしゃべっているキャスターたちが、そろって喪服を着て、神妙に原稿を読んでいた。

朝一番、最初に起きたときテレビをつけたら、いつもと何も変わらないテレビだった。なのに、ほんの1時間程度過ぎたら、同じ人物、同じ背景なのに、まったく違う光景が広がっていた。

結婚式が始まったのに、一度目をつむって再び開けたら、葬式になっていた、そんな感じだろうか。

その瞬間から、日本のテレビは、延々と昭和天皇を追悼する番組を、CMもなしで流し続けた。

日本の国民は、日本人らしく、そんなテレビには興味なく、あちこちのイベントや企画が中止になる中で、唯一流行ったのは、レンタルビデオ店だった。

オイラは、そのときフィクションには興味が湧かなくて、今、目の前に起きている現実に釘付けになった。

今、そこで何が始まろうとしているのか。何が変わろうとしているのか。

オイラは、昭和天皇という存在を通して、生まれてから初めて、日本人って何なんだという問いかけを自分にしたのだ。

猪瀬直樹さんは、東京都副知事という肩書きを持っているが、公務員というより、ほとんど作家として立ち振る舞っている。だから、主義主張にはあまり共感する部分がないが、作家としての振る舞いには、妙に共感できる。

『日本の信義』を読んで、当時のことを少しずつ思い出してみた。

「即位の礼」とか「大嘗祭」をめぐっては、当時国会やマスコミで大問題になった。

政治や行政が、天皇制とどう関わったら良いのか、日本人はあまり議論してこなかったのではないだろうか。

今振り返ってみれば、「即位の礼」も「大嘗祭」も、その主役となるべき皇族の思惑よりも、宮内庁の官僚がなし崩し的に「あり方」を決めてしまったのではないか。

日本の皇室は、どこまで皇室としての意思を持って動いているのだろう。

あのときオイラたち日本人は、もっと天皇制とどう向き合っていくべきか考えておく必要があったのかもしれない。

畏敬の念が、東京の形をつくっている。

放射状に広がる道路や鉄道は、その波動のようなものだ。

一方で、オイラたち国民は、日本国憲法に基づく「主権」を手にしている。

主権者として、東京の真ん中に君臨する皇室とどう関わっていくのか、宮内庁の官僚にまかせずに、もっと自ら発言していっても良いのではないだろうか。

少なくともオイラは、現在の象徴天皇制に違和感はまったく感じていない。日本人らしくて、ほのぼのとした関わり方だと思っている。

でも、その傍らで、皇室という存在や「お言葉」をコントロールしている官僚たちの暗躍には、とても違和感を感じている。

右翼=戦前の復活、左翼=天皇制の廃止、そういうステレオタイプな議論をしていても、天皇制と日本人、いや、もっとリアルに、天皇と死という現実と向き合うことはできないと思っている。実際、国民の心の深層にある天皇制は、イメージがもっと多様で、関わり方も人それぞれのような気がするのだ。

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