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2007年8月17日 (金)

【秋庭系東京地下物語'07《隠蔽》】(第3話)隠された中村順平「東京近郊」の秘密・前編

Photo1922年のパリで、ル・コルビュジエの「300万人のための現代都市」を目にした建築家の卵がいた。

中村順平である。

この偉大な建築家の名前を知っている人はそれほど多くない。その名を日本中にとどろかせたのは、皮肉にも、地下の都市伝説の権威・秋庭俊先生であった。

「東京近郊」という地図が左にある。これが隠された地下網の計画図である。この図が製作されたのは一九二四年(大正十三)年、内務省の主導の下、建築家の中村順平が設計した。(『帝都東京・隠された地下網の秘密2』P34)


これが戦前の地下東京計画図だったことは、第一章でも述べたとおり、複数の専門家から確かな証言を得ている。陸軍と内務省が参加していることからも、これが当時の政府案となっていたことがわかる。(『同』P168)

“中村順平は、東京の隠された地下計画を作成した設計士”

秋庭先生は、驚くべき事実を国民に明らかにした。

上に、「東京近郊」の実物がある。『東京の都市計画を如何にすべき乎』でも織り込まれていた地図である。少しサイズは小さいが、白黒の秋庭先生と違い、カラーである。

今回は、中村順平の「東京近郊」に迫る。

まず最初に結論だけ述べておく。

『東京の都市計画を如何にすべき乎』では、中村は第二節のなかで都市計画のあり方について述べると、第三節で『輝く都市』を紹介している。パリの展示の写真を掲載し、「都市の中心」とその周りの高層ビルについて紹介している。(『同』P167)

中村順平が『東京の都市計画を如何にすべき乎』で紹介したのは、『輝く都市』ではなく、「300万人のための現代都市」である。中村順平が1924年に発行された『東京の都市計画を如何にすべき乎』で、『輝く都市』を取り上げることなど、タイムマシーンがなければ不可能だ。分からない方は、前回の最後の方をもう一度読み返してみたいただきたい。

秋庭先生は、ここでも「輝く都市」と「300万人のための現代都市」をすり替えていた。

中村順平とル・コルビュジエの「300万人のための現代都市」との出会いは、1922年パリである。

中村は、1920年7月にフランスへ渡航し、9月からパリでアトリエ・グロモール・エキスペールに入って修業、1年後の1921年7月にエコール・デ・ボザールに入学した。1923年11月には、卒業制作の「メゾン・ド・ニッポン」でD.P.L.G(フランス政府公認建築士)の称号を受けた。

1922年、留学中の中村は、サロン・ドートンヌに出品されていたコルビュジエの「300万人のための現代都市」を見た。それは、長さ6メートルにもわたるパリ大都市計画パノラマ図だった。

中村は帰国後、1924年に『東京の都市計画を如何にすべき乎』で、「300万人のための現代都市」を紹介。さらに雑誌『建築新潮』の同年9月号から11月号で、「仏蘭西現代都市研究に就いて」という論文を発表し、「300万人のための現代都市」を解説している。

以下は、『建築新潮』からの引用である。

彼が新計畫を考へるに當つては、パリの地勢の實際を少しも參斟してはゐなかった。その譯はパリ市を改造しやうといふ動機ではなく、「未來に於ける一國の都市はかくなるべきである」といふ、都市の理想論を具体化した物であつて、事物の研究方法としては、全然性質から超越した、完全なる物を考へるといふ態度であるべきは当然の事柄である。

自分が先達て公にして東京市の新都市計畫案は、決して右の如き空想的の意義は含んでおらぬ、その根底は實際問題を土臺として出發したのであつて、隨つてその實行上の可能性を持つてゐる積りである、若し自分にして實際問題から超越して、東京の都市計畫を立てるとしたならば、恐らくはあんな手ぬるい案は立てなかつたと想像する。

「彼」というのは、ル・コルビュジエ。前段は、コルビュジエの都市計画について、「パリの地勢を少しも配慮せずに、未来の都市はかくあるべきという理想論を具体化した」と紹介している。この解説は当を得ていて、秋庭先生が主張するように、コルビュジエがパリのB1の地下道群・・・そんなものがあったのかどうか知らないが・・・を前提に地下計画を立てたという主張が滑稽だということが分かる。後段は、自分が計画した都市計画案「東京近郊」は、コルビュジエほど理想に満ちたものではなくて、東京の実際問題を土台にしていると書いている。

こう書いていると、中村は、コルビュジエの都市計画に感銘を受けつつも、一歩引いて、「これは理想論だから」とクールな見方をしているようにも見える。

確かに中村が製作した東京の都市計画案は、ル・コルビュジエのように「東京の地勢を無視して」構想されたものではない。ただ、その一部分は確実にコルビュジエの遺伝子を受け継いだものだったように思える。

その典型が、ピロティなのだ。

『東京の都市計画を如何にすべき乎』には、幹線道路の断面図のスケッチが掲載されている。道路の地下には地下鉄のトンネルがある。地上には道路があり、真ん中が急行線、両端が徐行用となっている。歩道は2階に持ち上げられ、道路の上を歩道で渡っている。これは、コルビュジエが都市計画案で描いた、自動車と人との分離と同じ考え方である。

「東京近郊」の東京湾にある巨大な飛行場は、「300万人のための現代都市」にあった都市中心部の摩天楼に囲まれた飛行場に似ているような気がする。「300万人の現代都市」のスケッチには摩天楼の飛行場周辺を舞う飛行機が描かれていたが、中村もやはり、復興計画案の鳥瞰図(『帝都東京・隠された地下網の秘密2』P171の図)で上空を飛ぶ飛行機の姿を描いた。

中村は確かにル・コルビュジエの都市計画を意識して、自らの都市計画を立案している。

コルビュジエの地下計画は、すでにかなりの地下が築かれていたパリの計画である。その当時、東京にどのような地下があっても矛盾することはなく、ボーバンの理論であれば、符合するところが多い。(『帝都東京・隠された地下網の秘密2』P168)

ほとんど意味不明である。いきなり「ボーバンの理論」とか言われてもねえ。何が符合するのかも書いていない。

前回も書いたけど、コルビュジエの都市計画は、長方形である。これを東京で応用しようとしたら、それこそ「地勢を配慮せず」に四角い線を引っ張ることになる。皇居も山手線もない。何をもって「矛盾しない」と語っているのか謎だが、そもそも「輝く都市」とすり替わっているのだから、こういう仮説そのものが秋庭先生によってねつ造されたものである。

秋庭先生は、中村順平が『東京の都市計画を如何にすべき乎』の中で、ル・コルビュジエの都市計画案の何を導入したのかをまったく触れずに、両者を極秘地下計画の立案者だと告発している。これが名誉毀損以外の何だというのだろうか。しかも、いったん中村とコルビュジエを強引に結びつけてしまうと、もうコルビュジエのことは忘れて、中村の都市計画案をコルビュジエとは無関係にいじり始める。仮説の立証もできていないのに、それを既成事実として次の仮説へと進む。しかも次の仮説は前の仮説とはまったくつながらない。

何故、秋庭先生は、中村の「東京近郊」を地下計画だと妄想するために、「300万人のための現代都市」と『輝く都市』をすり替えてしまったのだろうか。

答えは、簡単である。

陰謀論を組み立てるためには、邦訳されていない『輝く都市』が必要だった。

『輝く都市』が邦訳されていないのはパリの極秘地下計画が描かれているから→中村順平がパリで『輝く都市』を見て極秘地下計画の概念を「東京近郊」に反映させた→政府が中村順平の地下計画を政府案に格上げした・・・これが秋庭本のストーリー

しかし『輝く都市』のどこにも地下計画は書いていない上に、パリの計画ではない。そこで、「300万人のための現代都市」とすり替える。幸い、この計画案には都心部の中央ステーションに3層の地下鉄駅の構想がある。秋庭先生は、こうして2つの都市計画案をすり替えた。

間違えたとは言わせない。

『輝く都市』の図面なんてどこにでも転がっているのに、秋庭先生は自著でそれを掲載したことがない。偶然でも出来過ぎている。むしろ無知ならば自然に「輝く都市」の図面を掲載するだろう。だって、著書の中には「300万人のための現代都市」はほとんど登場しないし、一貫して「輝く都市」を取り上げている。何か意図があって「輝く都市」の図面を掲載していないと思われても仕方ないだろう。

専門家に迷惑がかかるから?

それはありえない。専門家の著書から二次資料を盗用すればともかく、日本では英訳版の『輝く都市』が手に入るのだから、そこから図面を引用すれば、著者はすでに死んでいる。迷惑などかからない。

ここからは、オイラの完全妄想である。UFOか心霊写真と同じレベルで読んでほしい。

おそらく秋庭先生は、中村順平を極秘地下計画の立案者に仕立て上げるために「300万人のための現代都市」を「輝く都市」とすり替えた。

最初に手に入れたのは、「東京近郊」であろう。後藤新平の足跡をたどっているうちに偶然見つけた1枚の図面。原典である『東京の都市計画を如何にすべき乎』を読むと、秋庭本で使えそうなネタがたくさん転がっている。さらにル・コルビュジエの都市計画に触手を伸ばす。「輝く都市」と「300万人のための現代都市」という2つの都市計画案を見つける。『輝く都市』には邦訳がないと知る。おそらくここで彼は、2つをすり替えて、あたかも「300万人のための現代都市」が「輝く都市」であるかのような著述を試みる。

かくして、「輝く都市」が何たるかをいっさい書かないまま、ル・コルビュジエを極秘地下計画の元祖として祭り上げた。

 

さて、次回の後編では、中村順平が『東京の都市計画を如何にすべき乎』を世に発表するに至った軌跡を追う。

(つづく)

【秋庭系東京地下物語'07《隠蔽》】

(第1話)隠されたル・コルビュジエ「輝く都市」の秘密・前編

(第2話)隠されたル・コルビュジエ「輝く都市」の秘密・後編

(第3話)隠された中村順平「東京近郊」の秘密・前編

(第4話)隠された中村順平「東京近郊」の秘密・後編

(第5話)隠された内田祥三「大同の都市計画」の秘密

(第6話)隠された後藤新平「帝都復興」の秘密・その1

(第7話)隠された後藤新平「帝都復興」の秘密・その2

                   ・・・(補足

(最終話)隠された後藤新平「帝都復興」の秘密・その3

(関連書籍)

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