« 【番組の途中ですが】累計アクセス数9万突破のご報告 | トップページ | 【秋庭俊先生応援企画】『帝都東京・隠された地下網の秘密』がトンデモ本って、マジっすか?10 最終回 »

2007年2月11日 (日)

【秋庭俊先生応援企画】『帝都東京・隠された地下網の秘密』がトンデモ本って、マジっすか?9

これを読んでいる方は、秋庭俊先生の書いている「地下網」について、肯定的な立場の方もいれば、否定的な立場の方もいるだろう。オイラは、最初に秋庭先生の書籍に出会ったとき、にわかには信じられないような内容だが、何らかの理由で表現が曖昧な箇所が多く、どこかに真実が隠されているような気がしていた。

オイラは、仕事上、都内のあちこちを歩いているから、秋庭先生が「戦前からある」と主張する場所を通ることもあった。通りがかりで真実が分かるわけはないが、そこを何度通っても、実際には、謎と言えるようなものではなかったし、明らかに間違っていることの方が多かった。それでも、誰にだって間違いはあるもので、間違いが散りばめられたどこかに、誰にも反証不可能な真理が存在するのではないかと、わずかの望みを持っていたこともあった。

最初は、「隠された地下網」は、秋庭先生の論証に間違いが多いけれど、どこかに必ず存在していて、大筋では正しいことのような気がしていた。でも、秋庭先生の本を読み進めていくうちに、その小さな確証は、だんだんと萎んでいった。このブログでいろいろと書くようになってからも、それでもやはり、東京のどこかに「国民には隠された地下網」が存在するのではないかという、かすかな望みを持っていたのである。大筋では間違っているが、どこかに真実が含まれている。いつの間にか、そんなところまでトーンダウンしていた。

どこかにあるはずの真実…それは、本当にあるのだろうか。

少なくとも、秋庭先生に最初の「ネタ」を提供した人物は、秋庭先生に対して、「真実」を語っていたのではないだろうか。それが誰か分からないが、その「真実」を導き出すための論証は、秋庭先生に託されたのではないか。そんな妄想をしていた。今や、秋庭先生の思考回路では、東京全体を政府専用地下鉄が走り回っているという誇大妄想にまで広がってしまっている。でも、もともとは、もっと小さな芽から始まったのではないか。

しかし、ここのところ、そのわずかな芽も、オイラの妄想なのではないかと疑うようになった。

以下は、『帝都東京・隠された地下網の秘密』(新潮文庫)からの引用である。

その半年前、私は東京都交通局のOB数人に話を聞いていた。証言はじつにリアリティがあって、「先に地下があった」ことはそれだけで十分にわかった。ところが、この頃OBの代表氏から連絡が入り、いまでも私の意見に賛同しているものの、無記名でもおそらく個人が特定される。本書の根拠になるような使い方は避けてほしいということだった。インタビューを長くあたためていれば、こういうことになる。わかっていながら半年が過ぎていた。これは私に責任があった。(P400,401)

東京都交通局のOB氏が勤めている職場へ私は向かった。そのOB氏と初めて話をしたのは二年ほど前のことである。(P371)

きょうはOB氏にトロリーについて聞かなければならなかった。(P373)

東京都交通局というのは、都営地下鉄の“経営主体”である。そのOBの証言は、この本を読む上では、かなり「根拠」として使われている。例えば、OB氏は、地下鉄新宿線が東京駅から五番町まで戦前に作られていたのかと聞かれて、

「私も、もういいかと思うんですけどね」(P372)

と答えて、これを最大の根拠としている。

さらに、隠された地下トンネルをトロリーが走っているかどうかOB氏に尋ねると、

「何を言っているんです。もう、知らないことなんかないじゃありませんか」(P374)

と答え、これもやはり、この本の根拠として使われている。

OB氏に断られたわりには、ずいぶんと根拠として活用しているところが、秋庭式なのかもしれない。ただ、OB氏は、秋庭先生の質問に対して、いっさい肯定していないところがおもしろい。これが秋庭先生の「演出」なのか、それとも、本当にこうしゃべったのかは分からない。でも、これを読んだ人は、戦前の東京の地下には、トロリーバスが走り回っていたという結論を、何となく印象づけることになる。

本の内容は、いかにも秋庭先生が自力で取材して書いているように読めるが、上の証言を読む限り、「半年前にOB数人に聞いた話し」の内容が登場していないことに気づく。秋庭先生は、一応、筋は通して、取材先との信頼関係を維持したわけだ。

もっとも、『隠された地下網』には、もう1つ、東京都交通局OBとおぼしき人物が登場する箇所がある。

地下鉄関係者の覆面座談会によると、都営浅草線は新橋-大門間で直線街路に地下鉄を建設していたが、一九六六年(昭和四十一)に政府の方針が一八〇度転換し、直線街路は政府、東京都の専用ルートにすると定められた。早速、ここで途切れたルートをつなぎ直すように言われ、設計士は当時、あまりのショックに髪の毛がまっ白になったという。(P326)

これは、間違いなく、「半年前にOB数人に聞いた話し」の一部だろう。

余談になるが、都営浅草線の新橋・大門間は、1964年(昭和39年)10月である。当時は、単線で開業した。新橋・大門間の複線化は、4年後の1968年6月のこととなる。地下鉄関係者が語っているという1966年は、すでにトンネルが存在している。つまり、地下鉄関係者が嘘をついているか、秋庭先生が話を歪曲したり、間違ったかのどちらかである。

東京都交通局のOBは、何を知っていたというのだろうか。そもそも、東京の地下鉄のほとんどは、営団(現在の東京メトロ)が経営している。でも、秋庭本には、東京メトロ(営団)のOBは、登場しない。交通局のOBなら、皇居の地下を縦断する地下鉄新宿線や丸ノ内線が戦前からあったという事実を知っているとは思えない。畑が全然違うからだ。もしも知っているのだとしたら、その話は、“また聞き”ということになる。どちらにせよ、証拠としては薄いのである。

Iさんは戦後、交通局でトロリーを運転していた。(P373)

確かに戦後、東京都交通局は一部でトロリーバスを走らせている。戦災で都電は路上の軌道が壊滅状態だった。地下鉄は、当時、東京都が建設するには、経営主体の一元化の問題が残っている。そんなわけで、手っ取り早く整備できるものが、トロリーバス路線だった。もちろん、地上の話である。その後、結局、路面電車や既存のバス路線も復旧し、地下鉄の建設も始まり、東京からトロリーバスは消える。

秋庭先生は、OB氏に対して、「Iさんは戦後初代だって聞いてましたけど、戦前にもありましたよね。新宿とか、溜池山王あたりに」と尋ねる。でも、答えは、上にあったような、「何を言っているんです」という意味不明な回答だった。結局、トロリーバスが地下を走っていたかどうかは分からないまま、次の話へと進んでしまう。日本に戦前、トロリーバスがあったということは確かだが、それが「隠された地下網」を走っていたかどうかは、まったく分からないまま、である。でも、ここをさらっと読むと、あたかも地下にトロリーが走り回っているような気がしてしまう。

なんだ、要するに地下があるような気がすればよかったのか。

この本は、何一つ論証していない。大切なのは、そこにあるかどうかではなく、政府の陰謀で地下が隠されているという印象だけが読者に伝われば、それでいいのである。それ以上は、書いている秋庭先生本人も期待していない。

本書の趣旨は地下道の暴露でもなければセンセーショナリズムでもない…(『新説東京地下要塞』講談社、P232)

逆に言えば、秋庭先生の推測通り、地下道などマジで出てきてしまっては、困惑するのは秋庭先生のほうなのかもしれない。どこに地下道があるかなんて、最初から興味の範疇にないからだ。だからこそ、秋庭先生は、その方法論として、必ず「隠された地下道」が見つかるような書き方はしない。見つかった瞬間、秋庭先生の仕事は終わってしまうもの。ってか、そんなもの、間違っても見つかるはずはないのだ。

ここからは、オイラの妄想である。信者の皆さん、もう一度繰り返すが、オイラの妄想である。秋庭先生、もしも読んでいたら、くどいようだが、オイラの妄想である。

東京の地下について、私はまだ何も知らなかった。(『帝都東京・隠された地下網の秘密』新潮文庫、P69)

もしかして、秋庭先生は、今もまだ、東京の地下について、何も知らないのではなかろうか。

(つづく)

(関連記事)

【秋庭俊先生応援企画】『帝都東京・隠された地下網の秘密』がトンデモ本って、マジっすか?

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

|

« 【番組の途中ですが】累計アクセス数9万突破のご報告 | トップページ | 【秋庭俊先生応援企画】『帝都東京・隠された地下網の秘密』がトンデモ本って、マジっすか?10 最終回 »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/109926/13864056

この記事へのトラックバック一覧です: 【秋庭俊先生応援企画】『帝都東京・隠された地下網の秘密』がトンデモ本って、マジっすか?9:

« 【番組の途中ですが】累計アクセス数9万突破のご報告 | トップページ | 【秋庭俊先生応援企画】『帝都東京・隠された地下網の秘密』がトンデモ本って、マジっすか?10 最終回 »