ねえ、君は、どんなことを考えて、30年も、そんなところに鎮座しているんだい?
オイラは、とにかく帽子が大好きで、しかも、何ヶ月かに1回くらい、東急ハンズとかパルコとかで、新しい帽子を買ってしまう。
今日、渋谷を、彼女と歩いていたら、ラブホテルが建ち並ぶ一角に、小さな雑貨屋さんのようなお店に出会ったんだ。
こんなところに、どうして?
そこは、アジア系の雑貨を中心に、大小様々な置物やらアクセサリーやらが並んでいて、オイラも彼女も、あっという間に虜になってしまった。小指の先ほどの小さな猫の置物…、しかも、ヒゲがぽよんぽよんとゴムで弾んでいる。バケツの中に汚い石が詰まっていると思ったら、石のひび割れの中から、美しい原石が見える。石によって、中身は青だったり、緑だったり…。
その店の一番奥には、帽子が並んでいるコーナーがあって、ターバンっぽいのから、麦わら帽子みたいのや、猫耳付きだったりして…。
で、その帽子コーナーの一番奥に、巨大な帽子、うーんと…、ツタンカーメンが被っているように黄金色で、そこには赤や緑や青の色彩の絵が描いてある。これが、オイラたちをジッと見つめているような気がしたんだ。
「ねえ、被ってごらんよ」
彼女がそう言うので、オイラは少しビビりながらも、その巨大なツタンカーメン風の帽子を頭に載せてみた。
「似合う」
「……(苦笑)」
オイラは、鏡に自分の姿を映してみた。
ひどい。
オイラたちは、アホみたいに笑った。彼女は、オイラの顔を見て、オイラは、鏡に映るオイラを見て、とにかく腹が痛くなるほど笑い尽くした。
はあーっと一息ついて、オイラは、帽子を外そうと…
ん?
外そうと…
ん?
外れない。
彼女が、オイラの帽子を引っ張った。が、頭の皮が伸びるような感触があるばかりで、帽子はさっぱり外れなかった。
うそ。
ふと振り返ると、初老の男性が、オイラの方を見て、震えていた。
「あの…、お店の方ですか。帽子がとれなくて…」
「あんた…、とんでもないことをしてくれたな」
「なんです?」
「その帽子は、国の特別保護記念物なんだ。壊したら、大変なことになる」
「特別…?なんですか、それは…」
突然、けたたましく非常ベルが鳴った。数十秒もしないうちに、店はパトカーやら消防車やらに取り囲まれて、レスキュー隊が店に入ってきた。
「帽子は?」
「あの、とれなくなりました。とっていただけるんですか」
「残念ですが、あなたから帽子をはなすのではなく、帽子からあなたをはなすのです」
レスキュー隊が、全員一斉にノコギリを手にした。
えっ?
切られちゃうのは、オイラ!?
オイラと彼女は、お店中のモノをひっくり返して、抵抗したが、すぐにオイラが確保されてしまった。彼女を店に残して、オイラは、外に引きずり出された。
「待てよ。そんなノコギリで切ったら、帽子に返り血が飛んでしまうぞ。汚れてもいいのか?」
レスキュー隊の隊長が、「なるほど」と頷いた。
なんだ、随分物わかりがいいじゃないか。
「お前は、帽子ごとラミネート加工して、国立博物館に展示する」
なっ!!!!!!!!!!!!!!
あれから、30年、オイラは、あの帽子を被ったまま、博物館の片隅にある展示ルームに、鎮座している。たまに彼女が来てくれるが、その頻度も、年を追う毎に減って、最近はもう、何年も姿を見ていない。
・・・・・・・2006年4月1日
サクラは、満開を迎えているらしい。
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