眞鍋姉さん、フランス料理なんて、一般庶民にはなかなか食べられませんよ。
オイラは、フランス料理を食べたことがない。フランス料理っぽいものは、それまがいの店で食べたことはあるのだが、本格的なフランス料理店は、経験がないのである。1年に1度くらい、いや、一生に1度でいいから、そんな豪華な料理を体験したいものである。第一、どんな格好でそんなレストランに行けばよいのか。食べようと企てるだけで、肩が凝ってしまいそうである。
そんな貧乏くさいオイラは、大学時代にフランス料理を食べる機会に恵まれた。両親が食べさせてくれるというのだ。しかも、新宿にあるヒルトンホテルのレストラン。美味しくないわけがない。
フランス料理なんて、テレビでしか見たことがない。一般庶民の、少し格下階級のオイラたちにとって、一生に一度出会うかどうかという最高級料理である。しかも、天下のヒルトンホテルである。
オイラの母は、どこでそんな知識を持ったのか、ジャケットを着用するとか、ナイフとフォークは外側から使うとか、そんなフランス料理のマナーを、自慢げに教えてくれた。
何を食べられるんだろう。ナイフをカチカチ音を立てたりしたら、追い出されたりしないのだろうか。
名古屋から新幹線で上京し、新宿のヒルトンホテルに宿泊する。もう、これだけでも盛り上がってしまう。
「今夜は、フランス料理だぎゃー」
両親は二人とも興奮していた。オイラも、興奮を隠せなかった。
その夜、両親とオイラは、これ以上なくオシャレをして、颯爽とフランス料理のレストランへと向かった。向かったと言っても、ホテルのエレベーターで下りるだけである。
心臓の鼓動が激しくなる。
生まれて初めてのフランス料理。
オイラは、どこにフランス料理屋があるかも分からないので、両親の後ろをくっついて歩いた。
両親は、お店の前に立っているタキシードの店員に声をかけられて、立ち止まった。いくつか会話を交わすと、店に入った。オイラも、それに続いた。
席に案内され、鉄板の前に座った。
ん?
鉄板?
オイラ「ねえ、フランス料理を食べるんじゃないの?」
母「分からんのだわー」
オイラ「はっ?」
店員が、メニューを持ってきた。
オイラは、メニューを見て、ぼう然とした。
ここは、鉄板料理のお店。フランス料理は、お隣である。
オイラ「ここは、鉄板料理の店でしょ」
母「さあ、どうだろー」
父「ええわー、何でもええわー」
フランス料理食べに来たんとちゃうんかい!!!!!
母が、店員を呼んだ。
母「あのー、フランス料理はないんですか?」
店員「……」
店に入って、メニューまで出されて、やっぱりやめましたとは言えない。
オイラたち家族は、仕方なく、鉄板料理を楽しんだ。このお店の名誉のために言うと、かなり美味しかった。オイラは個人的には、最高に感動した。
が…。
両親が、何故、この店に迷い込んでしまったのか、今でも謎である。しかも、やりとりから分かるように、本人たちは、フランス料理屋だと信じ込んで入店している。
オイラの、初めてのフランス料理は、こうして玉砕した。
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