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2005年8月18日 (木)

東海道本線の全駅を暗記している男

D100003337年間も生きていると、本当にたくさんの友達に会う。アホも天才もいる。善人も悪人もいる。「友達」とあえて書いたのは、blogの好感度を下げたくないからである。

かつて、私には、実家のある名古屋に、東海道本線の全駅を暗記している友達がいた。暗記するのは自由である。問題なのは、電話をかけてくるたび、話題がなくなると、東海道本線の全駅を東京から順番に電話口で叫び始めることだ。なんせ、神戸まで延々と続くのだから、一度始まると、かなりやっかいだ。私もかなり、お人好しだ。終点の神戸まで、ずーっと各駅停車の旅を延々と黙って聞き続ける。いや、聞き続けるというより、彼はかなり大きな声で話すから、電話を机に放置しておけば、部屋で好き勝手に何をしていても、彼は勝手にしゃべり続けてくれる。

さすがに、彼も感づいていたかもしれない。ある日、静岡を出たあたりで、急に止まり、「あれ?次って何だっけ?」と忘れたふりを始めたのだ。私は、小さな音でテレビを楽しんでいたので、この急な変化球には正直焦った。「何だっけ」と言われても、私は静岡の次が何駅かなど、知るはずもない。「さあ、知らない」と答えると、再び受話器を置いて、テレビに視線を戻した。彼もかなり、上手である。静岡の次など分かるはずもない。すると、彼は、私が知らないはずのない駅を、忘れたふりをした。「あれ?笠寺の次は何だっけ?」・・・知っている。それは、私の地元、熱田である。が、私にも意地がある。「知らない」と言い張った。彼は、「そうか、知らないのか」と、このときばかりは、かなりショックを受けていた。いや、ショックを受けるような筋合いではないが。

彼は、不思議なほど東京にまめに通い詰めていた。理由を聞くと、これが驚きだった。どうやら、Hビデオを買いあさっていたようなのだ。どうして、東京で? いや、確かに東京のほうが品揃えはいいかもしれないが、そうまでしてHビデオを買いあさらなければならないのは、どうしてなのだろうか。謎は深まるばかりだった。

もっと驚いたことがあった。彼は、東京に来ると、私が住んでいた部屋の近くのファミレスで朝まで私を待っていたことがあったというのだ。もちろん、彼が来ることも知らなかったし、彼が来たことも電話すらなかった。私は、夜になれば部屋に帰る。部屋まで来れば、私はいる。が、その日、私の部屋には誰も来なかった。彼は、誰を待っていたのだろうか?

ここまで読んだ読者諸君は、もう、私と同じことを感じているはずだ。

そう。気持ち悪いのだ。

彼は、毎年の年賀状だけは欠かさなかった。返信したことは一度もない。5年ほど前、とある理由で電話番号を変えることになった。彼には電話番号を教えなかった。かなり急なことだったし、忙しくて、結構電話番号を教え忘れた友達は多いのだが、住所も変わっていないし、会社も変わっていないから、まあ、つながる人は自然につながるものだ。彼は、それ以来、連絡が途絶えている。その年の年賀状は、ついに来なかった。私と彼の奇妙な関係は、こうして途絶えた。

・・・・いや、もしかすると、彼は今日も、近所のファミレスで待っているかもしれない。私はいまだに東海道本線の全駅を暗記できていない。生涯できないと思っている。

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