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2005年8月 7日 (日)

ダンス

D1000010今夜、木下直子ちゃんのライブに四谷天窓に行き、その帰りでの出来事。私は、突然、カツ丼が食べたくなり、お弁当とお総菜が買える、某弁当屋さんに入った。普段なら夜はたくさんの客が出入りする店なのだが、夏休みということもあるし、日曜日とあって、客はまばらだった。私は、とりあえずお総菜コーナーをウロウロしてみたが、どれも残り物ばかりだったので、お弁当を頼みにカウンターに向かった。

カウンターの前には、小太りのメガネの男が立っていた。かなりカウンターに接近して、カウンターの奥を向いていた。カツ丼を頼もうとして、私は、ギョッとして目を疑った。

彼が、踊っていたのだ。

店には、テンポの良いポップ調のBGMが流れていた。彼は、その曲に合わせるでもなく、身体を左右に揺らしていた。見ようによっては、トイレを我慢して揺れているだけにも見えたが、いや、違う、彼は確かに踊っていたのだ。ヘッドホンを付けているわけではない。彼は、とにかく、意味もなく、左右に揺れていたのだ。

私は、その踊りの邪魔をしないよう、横からそっと、店員に向かい、カツ丼をオーダーした。店員は、その男のことなど気にもせず、愛想良く私に応対した。私がお金を払い、レシートとおつりを受け取る合間も、彼は、一心不乱に揺れ続けていた。ふと、彼の顔を見ると、遠い目をしながら微笑んでいた。

普通、弁当を待つ間、客はカウンターから離れて遠巻きに自分が呼ばれるのを待つものだ。カウンターに密着していては、他の客の邪魔だからだ。私も、そのセオリー通り、店の片隅に移動し、踊る彼の後ろ姿をジッと見ていた。と、彼が不意に振り返った。彼は、微笑みながら、左右に揺れながら、総菜コーナーへと移動した。そして、再び、左右に揺れ始めた。彼的にはノリノリなのだろうか、表情は「絶叫調だぜっ!」だった。

彼は、総菜コーナーを一通り眺めると、再び、カウンターの前に戻り、またまた左右に揺れ始めた。無言で揺れ続けた。

少しして、店員が、お弁当を袋に入れて、彼に渡した。すると、彼の踊りはぴたりと止んだ。彼は、お弁当を持つと、今度は無表情な顔をして、ずんずんと店を出て行った。

許せないことがある。

空いている店内で踊りくらいは許そう。私が許せないのは、彼が、昔の私にそっくりだったことだ。髪の毛は黒く、だらしなくTシャツを着て、小太りで、意味もなく汗をかいていて、顔と頭がべとついていた。もしかして、私も酒を飲んでいる頃、あんな風に滑稽だったのだろうか。彼からは、酒の臭いがしなかった。しらふの酔っぱらいなら、なおさら怖い。

帰宅して、カツ丼をむさぼり食った。炭酸水をゴクゴクと飲み込みながら、心の中で決心した。明日から、部屋の大掃除をしよう。自炊ができる部屋にしよう。自炊をしよう。あと…、少しやせよう。

さあ、明日がもうすぐ始まる。

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