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2005年6月13日 (月)

人生最後のアルコール

D1000092あの日、空は気持ちよく晴れ渡っていたが、私は、空の色が分からないくらいに絶望して、真っ暗闇を歩いていた。日曜日で仕事が休みだというのに、心は騒がしくて、周りに誰もいないのに、私の頭の中には、たくさんの登場人物が勝手に出入りして、大会議を開き、自分の35年間の人生に批評を加えていた。その1つ1つの言葉に、私はいちいち傷ついて、走ってもいないのに、心臓病でもないのに、動悸が止まらず、酒を飲んでもいないのに、二日酔いの朝のようなけだるい状態が続いていた。

夕方、近所の居酒屋に行って、酒を飲んだ。これでもか、これでもかと、お腹に熱燗を注ぎ込んだが、2時間くらい飲んでも、飲んだ気がしなかった。私の心の中にポッカリと空いた穴ぼこは、もう、アルコールくらいでは埋まらないほど肥大化していた。どんなに強いアルコールを注ぎ込んでも、穴ぼこには、空しい突風が吹き抜けて、酔いはしても、もう、心を満たしてくれることはなかった。

ふと、その夜、谷口深雪ちゃんが、町田駅前でストリートライブをやっていることを思い出した。私は、居酒屋の会計を済ませて、電車に乗った。

町田駅前は、凍えそうなくらい寒かった。JRから小田急へと通じるペデストリアンデッキで歌っている彼女を見つけた。夜8時くらいから終電の直前まで、じっと彼女の歌声に耳を傾けていた。なぜなのか、その理由は分からない。とにかく、何かにすがりつきたかっただけだ。誰かのそばにいたかっただけなのかもしれない。彼女の歌声を聴きながら、たった1つのことを考えた。

これで何もかも終わりにしよう・・・。

どうして、そういう結論に至ったのか、その過程が思い出せない。私は、すべてに降伏して、降参した。夜空に向けて、白旗を揚げていた。お酒だけではなく、人生の何もかも、翌朝には消えてなくなっている気がした。私は、終電で帰り、近所の弁当屋でカツ丼を買って、家に戻ると、泣きじゃくりながらそれを食べた。

次の日、私はまだ生きていた。あれ以来、お酒を飲んでいない。「やめた」というより、力尽きた、といったほうが正しい。谷口ちゃんは、これは本人すら知らないことだが、酒を飲んでいる私を見た最後の人物である(だから、何だっていう意味はない(笑))

一生酒を飲まない、という覚悟は、正直あまりない。でも、もう、一生酒を飲むことはないだろうと思っている。

あれから、1年と半年。終わってしまったというのに、私はまだ生きている。かといって、何かが始まっているわけではない。明日生きているかどうか分からなかったのに、そのうち1か月くらい先は生きているような気がした。今は、あと2、3年は生きているような気がする。

今日、梅雨のお休みに雲間から覗いた青空は、透きとおっていて、きれいだった。あの日も、あの空は、私を見下ろしていた気がする。今年の夏も、冬も、そして、来年の夏も・・・。生きている限り、あの空は、私を見守っている。歩き出す私を、ずっと待っている。

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